POINTアダルトチルドレンの回復過程「ステップ③:取りこんだ信念に挑む」とは、「禁止令・ドライバー」を緩め、「生きづらい『人生脚本』」から「生きやすい『人生脚本』」へと書き換えることです。
心理カウンセラーの寺井です。
「アダルトチルドレン」とは、「機能不全家族」で育ったことにより、大人になっても「生きづらさ」を感じ続けている人たちを指します。
そして、この「アダルトチルドレン(AC)概念」の生みの親である、アメリカのソーシャルワーカー・社会心理学博士「クラウディア・ブラック」は、「アダルトチルドレンからの回復プロセス」として、次の「4つのステップ」を示しました。
アダルトチルドレン回復の4ステップ
- 「ステップ1=過去の喪失を探る」
- 「ステップ2=過去と現在をつなげる」
- 「ステップ3=取りこんだ信念に挑む」
- 「ステップ4=新しいスキルを学ぶ」
ちなみに、この記事は「アダルトチルドレンの回復過程のステップ③:『取りこんだ信念に挑む』」についての解説です。
なお、『ステップ①』『ステップ②』については、以下の記事で詳しく解説しています。
それでは、アダルトチルドレンの回復過程のステップ③:「取りこんだ信念に挑む」について解説していきます。
ACの回復過程:ステップ③「取りこんだ信念に挑む」
「アダルトチルドレン(AC概念)」の生みの親である「クラウディア・ブラック」は、「アダルトチルドレンの回復過程のステップ③:『取りこんだ信念に挑む』」について、以下のように解説しています。
ステップ3=取りこんだ信念に挑む:過去に取りこんだ「私は○○だ」「○○すべき」「○○であるべき」といった考え方やルールのうち、自分を苦しめているものを手放す。そして、別の考え方やルールに置き換える作業をする。たとえば「他人の要求になるべく応えるべきだ」→「私はイエス、ノーを自分で決めていい」「マイナスの感情をもつのはよくない」→「感情は自然にわいてくるもので、いい・悪いはない。すべて自分に大切なことを伝えている」のように。
以上のことから、「取りこんだ信念に挑む」とは、以下の3つの作業にわけて取り組む必要があります。
取りこんだ信念に挑む
- 「取り込んだ信念」を理解する
- 「取り込んだ信念に挑む」を理解する
- 「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本の書き換え)
それでは、以下に詳しく解説していきます。
ステップ③-1:「取り込んだ信念」を理解する
まず、「アダルトチルドレンとは、親から受けた子育ての影響で子どもの頃に身に付けた『“生きづらい”思考・行動パターン(人生脚本)』を、大人になっても無意識に繰り返している人」を指します。
ですので、「取り込んだ信念」とは、親から受けた子育ての影響で子どもの頃に身に付けた「“生きづらい”思考・行動パターン(人生脚本)」のことを指します。
また、「人生脚本」とは、主に「禁止令」と「ドライバー」という「2つの否定的な価値観」で形成されていると考えられています。
よって、「取り込んだ信念」とは、自分の心に内在する「自己否定的な価値観(禁止令・ドライバー)」のことを指します。
取りこんだ信念の具体例
- 【禁止令】⇒「~しちゃダメ!」「~しないほうがいい!」など、自分の感情を「我慢・抑圧する」ような「自己否定的な価値観」
- 【ドライバー】⇒「もっと~しなきゃいけない!」「もっと~したほうがいい!」など、自分自身を「煽り立てる・頑張らせる」ような「自己否定的な価値観」
このように、「禁止令・ドライバー」は、「ありのままの感情表現(素直な感情表現)」や「ありのままの自分(素直な自分)」を自ら否定してしまう価値観ですので、そのぶん「ストレスを抱えやすい信念」と言えますし、「禁止令・ドライバー」の影響が強い「人生脚本」は、そのぶん「生きづらさを抱えやすい『人生脚本』」であると言えます。
なお、「人生脚本(禁止令・ドライバー)」については以下の記事で詳しく解説していますので、必要な方は参考にしてください。
ステップ③-2:「取りこんだ信念に挑む」を理解する
反対に言えば、「禁止令・ドライバー」を緩めることができれば、「ありのままの感情表現(素直な感情表現)」や「ありのままの自分(素直な自分)」を自ら肯定できるようになり、そのぶん「ストレス」を抱えにくくなり、そのぶん「生きやすい『人生脚本』」へと改善することができると言えます。
このように、「禁止令・ドライバー」の影響を緩めることで、「生きづらさを抱えやすい『人生脚本』」から「生きやすい『人生脚本』」へと改善することを、「交流分析」という心理学では、「人生脚本の書き換え」あるいは「再決断療法」と言います。
再決断療法とは、人生脚本、つまり幼児期に作った自分の決断に基づいて構成された人生のパターンの束縛から脱け出して、より自由で創造的な生き方をするために、チャイルドの自我状態に戻って、決断をやり直し人生脚本を書き換えて行く精神療法ということになります。
引用元:TA再決断療法とは?
このように、「取りこんだ信念に挑む」とは、「禁止令・ドライバー」を緩め、「生きづらい『人生脚本』」から「生きやすい『人生脚本』」へと書き換えることを指します。
ステップ③-3:「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本の書き換え)
なお、「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)に当たり、重要なポイントは以下の8点です。
POINT
- 「禁止令・ドライバー」を否定せず、肯定する
- 「ありのままの自分(どんな自分)」も否定せず、肯定する
- 「人生脚本の変化」を感じる
- 「チャイルドの自我状態」を理解する
- 「幼児決断」を理解する
- 「退行催眠」を理解する
- 「インナーチャイルドセラピーの考え方」を理解する「インナーチャイルドセラピーの有効性」を理解する
それでは、以下に詳しく解説していきます。
ステップ③-3-1:「禁止令・ドライバー」を否定せず、肯定する
「禁止令・ドライバー」を始め、人間の心にはさまざまな「感情・価値観」が内在しています。
反対に言えば、例え「不安・悲しみ・怒り」といった「ネガティブな感情(不快な感情)」であっても、自分の心に内在し、さまざまな影響を受けている以上、自分にとって決して不必要なものではなく、必要なものと言えます。
以上のことから、自分の「感情・価値観」を否定することは、自分に必要なものを否定することになってしまい、結果、「感情・価値観」は反発してかえって大きくなってしまいます。
このように、人間の「感情・価値観」には、「否定すればするほど反発して大きくなり、肯定すればするほど和らいで緩む」という特徴があります。
心はマイナスの感情を”感じる”から苦しいのではなく、実際にある感情なのに「感じまい」と頑張ったり、感情を”否定している”から苦しくなっているのです。
よって、「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)ためには、「禁止令・ドライバー」を否定するのではなく、肯定して和らげていく必要があります。
ステップ③-3-2:「ありのままの自分(どんな自分)」も否定せず、肯定する
例えば、子どもの頃、「テストで100点を取れなかったときには褒めてもらえなかったが、テストで100点を取れたときには褒めてもらえた…」という「条件付きの愛情」に基づく経験をかさねると、子どもは、「テストで100点を取らなければならない!」という「ドライバー」や「テストで100点を取れない自分は価値がない!」という「禁止令」を持つようになります。
条件付きの愛とは、すなわち「◯◯する子は愛してあげる」「◯◯できない子は愛してあげない」というコントロールです。引用元:条件付きの愛。アダルトチルドレンがハマりやすいワナとは?
そうすると、テストで100点を取れない限り自分を許せなくなってしまい、結果、「テストで100点を取れない自分なんてダメな自分だ!」という「自己否定感」を強めてしまいます。
ただ、だからといって「テストで100点を取らなければならない!」という「ドライバー」や、「テストで100点を取れない自分は価値がない!」という「禁止令」を否定すると、「禁止令・ドライバー」はかえって強まってしまい、結果、人生脚本の書き換えが難しくなってしまいます。
ですので、「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)ためには、以下のような「4人の自分」の存在を全て肯定する必要があります。
「ありのままの自分」具体例
- 「テストで100点を取らなければならない!」と思い込んでいる自分も存在してOK
- 「テストで100点を取れない自分はダメな自分だ!」思い込んでいる自分も存在してOK
- 「テストで100点を取って褒めてもらいたい!」と願っている自分も存在してOK
- 「テストで100点とれなかった!」という自分も存在してOK
このように、自分自身を「条件付き肯定」するのではなく、「ありのままの自分(どんな自分)」も否定せず「無条件肯定」することで、「自己受容力」が高まり、「禁止令・ドライバー」を緩めることができるようになっていきます。
ステップ③-3-3:「人生脚本の変化」を感じる
「禁止令・ドライバー」を緩めることができると、子どもの頃から無意識に繰り返してきた「“生きづらい”思考・行動パターン(人生脚本)」が、以下のように書き換わっていきます。
POINT
- 書き換え前
完璧な自分でなければ自信が持てず、自分の失敗も他人の失敗も許せず、自分に対しても他人に対しても厳しい反面、少しの失敗で大きく落ち込んでしまう人生だった
POINT
- 書き換え後
完璧であってもなくても落ち着いて過ごせるようになり、自分に対しても他人に対しても寛容になったのに加え、例え、失敗したとしてもやり直せばいいと思えるようになった
このように、「禁止令・ドライバー」を緩めると、新しい「思考・行動パターン(人生脚本)」へと書き換わり、そのぶん生きやすくなっていきます。
ステップ③-3-4:「チャイルドの自我状態」を理解する
とはいえ、「交流分析」によると、「再決断療法」によって「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)ためには、「『子ども(チャイルド)』の自我状態に戻ってアプローチする必要がある」と考えられています。
再決断療法は「子ども」の自我状態にアプローチすることで、腑に落ちた気づきと感情をベースに、考えや行動を変えることができます。つまり、望まない無意識の人生計画といえる人生脚本から脱却することもできるのです。
引用元:人生脚本-幼時決断と再決断療法
「自我状態」とは、自らの人格を形成している「パート(部位)」のことを指し、「交流分析」では、人の心を「ペアレント」「アダルト」「チャイルド」の「3つの自我状態(部位)」にわけて考えます。
このように、「自我状態」とは、機械でいう「モード(方式)」のようなもので、人は、人間関係において「ペアレント(親の真似をしている状態)」「アダルト(客観的な判断をしている状態)」「チャイルド(子どもの頃の経験を繰り返している状態)」の「3つのモード(やり方)」を、状況に応じて無意識に使い分けていると言い換えることができます。
交流分析では、自分の中に3つの部分を備え、それにより人格が形成されるいると考えています。これらのことを自我状態と呼びます。
引用元:交流分析-5つの自我状態
交流分析は自我状態(心)を3つのモデルにわけている、3つの自我状態とは「ペアレント」「アダルト」「チャイルド」と呼ばれ、「ペアレント」はかつて自分が子供の頃に親や親的役割をした人のマネをしている時の自我状態(心)であり、「アダルト」は適切な判断をくだしたりするコンピュターのような自我状態(心)で、「チャイルド」は子供の頃に自分が経験した事を反復している時の自我状態(心)です。
引用元:五つの心の動き(エゴグラム)
このように、「人生脚本」とは、「ペアレント」でも「アダルト」でもなく、あくまで「チャイルドの自我状態(子どもの頃の経験を繰り返している状態)」です。
ですので、「人生脚本を書き換え」は、今現在の「“生きづらい”人生脚本」を選択した「子どもの頃の感覚(チャイルドの自我状態)」に戻って取り組む必要があると言えます。
反対に言えば、「人生脚本を書き換え」は、「大人になった自分の感覚(ペアレント・アダルトの自我状態)」で取り組んでいる限り、いくら多くの時間を費やしても、いつまでも書き換えることはできないと言えます。
ステップ③-3-5:「幼児決断」を理解する
そして、子どもの頃の自分が、今現在の「“生きづらい”人生脚本」を選択したことを、「交流分析」では「幼児決断」と言います。
親(養育者)は、子どもを育てている間、無意識にたくさんのメッセージを子どもに与えています。そのメッセージを子どもは取り入れ、自分の中でどのように生きていくか決めます。これを交流分析では、「幼児決断」と呼びます。
引用元:交流分析|禁止令と幼児決断
このように、「人生脚本を書き換える(再決断する)」ためには、「幼児決断」をした子どもの頃の感覚(チャイルドの自我状態)に戻った状態で「人生脚本」を選択しなおす必要があると言えます。
ステップ③-3-6:「退行催眠」を理解する
そして、「人生脚本を書き換える(再決断する)」ために、「子どもの頃の感覚・感情・記憶(チャイルドの自我状態)に戻る」ことを「退行」と言い、心理カウンセラーの催眠誘導による協力のもと行う「退行」を「退行催眠」言います。
退行とは幼児期の感覚、感情、記憶へ遡る精神状態をいいます。そして退行催眠とは、昔の過去の記憶や感覚に戻らせる催眠誘導を指します(年齢退行)。
反対に言えば、「子どもの頃の感覚・感情・記憶(チャイルドの自我状態)に戻る(退行)」をしない限り、「人生脚本を書き換えることはできない」と言えます。
ですので、例え「アダルトチルドレンの克服」をうたうカウンセリングサービスであっても、「退行催眠(チャイルドの自我状態に戻ること)」をしない、すなわち「カウンセリングによる対話を繰り返すのみ」では、アダルトチルドレンの克服は難しいと言えます。
ステップ③-3-7:「インナーチャイルドセラピーの考え方」を理解する
そこで、「ACの回復過程:ステップ①『過去の喪失を探る』」でも解説した通り、アダルトチルドレンの克服を目的とした心理カウンセリングでは、「子どもの頃の感覚・感情・記憶(チャイルドの自我状態)へと戻る(退行を行う)」ために「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」を用いるのが一般的です。
インナーチャイルド療法とは、退行療法の中の1つで、「自分の中の小さな子ども」にアクセスする療法です。潜在意識は決して忘れるということがないという特徴を持っています。また潜在意識には、時間の概念というものもありません。ですから、私たちの心の奥深くには、いまだに「傷ついたままの小さな子どもの自分」がいるのです。
このように、「子どもの頃の感覚・感情・記憶(チャイルドの自我状態)」を「インナーチャイルド」という「イメージ」に置き換えることで「人生脚本を書き換える(再決断療法)」を行うことを「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」と言います。
ステップ③-3-8:「インナーチャイルドセラピーの有効性」を理解する
また、「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」は、「催眠療法(ヒプノセラピー)」すなわち「目を閉じた状態」で行うため、そのぶん「恥ずかしさ」や「恐れ」といった「防衛機制」の影響を和らげながら取り組むことができ、そのぶん「人生脚本の書き換え(再決断療法)」を安全に確実に進めやすくなります。
ヒプノセラピー(催眠療法)とは、ユングやフロイトの提唱した深層心理学を根源とし、催眠状態を利用して潜在意識に働きかけ、心理的な問題(=悩み)や心因的な症状を改善する心理療法です。
引用元:ヒプノセラピー基礎知識
また、「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」は、「アダルトチルドレンの回復過程のステップ①:『過去の喪失(幼少期のトラウマ)の解放』」にも有効であるため、「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」を行うことで、「人生脚本(禁止令とドライバー)」が原因で起きている「自己否定感の改善」と「心の傷(幼少期トラウマ)」が原因で起きている「複雑性PTSDの改善」の両方を同時に取り組むことができます。
よって、「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)は、アダルトチルドレンを克服にとても有効である」といえます。
なお、「インナーチャイルドセラピー」については以下の記事で詳しく解説していますので、必要な方は参考にしてください。
ACの回復過程:ステップ④「新しいスキルを学ぶ」
次のステップは、「アダルトチルドレンの回復過程のステップ④:『新しいスキルを学ぶ』」です。
「アダルトチルドレン(AC概念)」の生みの親である「クラウディア・ブラック」は、「アダルトチルドレンの回復過程のステップ④:『新しいスキルを学ぶ』」について、以下のように解説しています。
ステップ4=新しいスキルを学ぶ:別の考え方やルールのもとで生きていかれるように、これまで学ぶ機会がなかったスキルを学び、練習しながら身につけていく。たとえば、人間関係の方法、感情の扱い方、自分を大切にする行動、つらさに対処する方法、遊ぶことや楽しむこと、ノーを言うこと、他人からの言葉の攻撃をまともに受けない方法・・・など。
以上のことから、「新しいスキルを学ぶ」とは、以下の3つの作業にわけて取り組む必要があります。
新しいスキルを学ぶ
- 「人間関係の方法」を学ぶ
- 「感情の扱い方」を学ぶ
- 「自分を大切にする方法」を学ぶ
続きは、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
さいごに、本記事の重要ポイントをまとめます。
- POINT「取り込んだ信念」とは、自分の心に内在する「禁止令・ドライバー」を指す
- 「取りこんだ信念に挑む」とは、「禁止令・ドライバー」を緩め、「生きづらい『人生脚本』」から「生きやすい『人生脚本』」へと書き換えることを指す
- 「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)ためには、「禁止令・ドライバーの存在」や「ありのままの自分(どんな自分)の存在」を否定せず、肯定する
- 「禁止令・ドライバー」を緩める(人生脚本を書き換える)ためには、「子どもの頃の感覚(チャイルドの自我状態)」に戻って取り組む必要がある
- 「子どもの頃の感覚(チャイルドの自我状態)に戻る」ことを「退行」と言う
- 「子どもの頃の感覚(チャイルドの自我状態)」を「インナーチャイルド」という「イメージ」に置き換えることで「人生脚本を書き換える(再決断療法)」ことを「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」と言う
- 「インナーチャイルドセラピー(退行催眠)」は、アダルトチルドレンを克服にとても有効である
なお、本記事に関する関連情報は、以下のページにまとめていますので紹介します。
関連情報まとめページ
以上、「ACの回復過程:ステップ③『取りこんだ信念に挑む』の解説」という記事でした。